『コンビニ人間』『武道館』

村田沙耶香コンビニ人間

 普通の社会で「正常」になれない36歳処女コンビニ店員が主人公の話。面白かったです。あと色々と共感してしまい辛い。

 世俗の空気というか、暗黙のルール的なものにたいていの人は苦労することなく乗っかることができるんですよね。男の子がうるさくて迷惑だからといってスコップでその子の頭を殴ってはいけないし、女教師がヒステリーをおこしたからといって黙らせるためにスカートとパンツをずり下げてはいけない。そんなことは「普通に考えてわかる」。でも主人公にはそれがわからない。目的のための最も合理的な解を選択する、選択できてしまう。

 友達もろくにいないまま大学生になった彼女はふとしたきっかけからコンビニバイトを始める。コンビニには完璧なマニュアルがある。真似するのは昔から得意だった。マニュアルのない世界でどうすれば普通になれるのかわからない私も、ここでは世界の歯車になれる。コンビニ店員は彼女にとってまさに天職。コンビニの「声」が聞こえる。コンビニ店員になったことで彼女は生まれて初めて「正常」な人間になれたわけです。

 ところどころに主人公のアスペユーモアが散りばめられていていい。白羽という名のキモカネ中年男が登場するのだが、彼の異常者ムーブに対して「修復されますよ」と呟いたり、赤の他人に子どもを作る方が人類のためになるんでしょうかとかたずねたりする。主人公も白羽もキャラが立っていてアニメみたいなんだけど、それでも妙に現実味があって出来のいいラノベみたいな面白さがある。

 コンビニという清潔さと合理性の極致のような空間、「正常」な人にとってはちょっと息苦しい空間に生きるための水を見つける。現代社会を縄文時代と地続きのオスとメスと猿山の社会だと思って疑わない諸氏、必読。

 

朝井リョウ『武道館』

 私アイドルってあんま好きじゃないんですよね。デレマスはやってたけど。でもアイドルというジャンルはどうも昔から苦手で、未成年〜20歳くらいの女が資本主義のマッドモンスターによるプロデュースの下に社会に男に媚び売って尻振ってるのがグロテスクに感じられてそれがほんとにダメで、中学生くらいのときにA○B48で誰が好きかとかよく聞かれたけどマジで興味なかったし興味も持ちたくなかったんですよ。

 アイドル(idol)は憧れの仕事であるはずなのに、いつの間にか誰かの期待に応えるために心と身体を差し出させる器になっている。少女の夢と大人の欲望の交差地点。歌とダンスが昔から大好きでアイドルに憧れた少女を主人公にエモーショナルに描き切った朝井リョウ会心の1冊。アイドルが苦手な人こそ楽しめるかもしれないね。